抑制的なスピーチだが、内容はとても示唆に富む。私は数年後に国家という枠組みの崩壊の先駆けだったとして参照されることになる可能性があると思う。
1776年にアメリカが独立し、民族と国家のアンバンドリングが部分的ながら実現された。技術、あるいは金が、それまでの国家の枠組みを破壊したと思っている。世界大戦前後も、欧州の先進国は、まあまあ上手に立ち回ったが、生まれで決まるのではなく、自分の意思で国に参加するという新しいパラダイムが確立して時代は変わった。金本位制度の崩壊もバーチャル化の始まりだったのだろう。金を稼ぐ力に人類は新時代の価値を見出した。屈服したと言ってもよいだろう。リセットされた日本はその恩恵を受け、恐らく、日本に学んで工業化社会を後発の利を生かして中国は、洗練した形で果実を刈り取るだろう。今も、その途上にあるように見える国々はあるが、最後のアメリカ的な国家の末裔は中国になると思う。
エストニアも29年前にリスタートした新興国であり、同時に歴史のある民族国家でもある。ただ、今までの国家と根本的に違うのは、Web後の国家だという点だ。多分にタイミングと偶然もあったとは思うが、世界で初めてのデジタル国家として最初の困難を乗り切ったように見える国だ。国としては、民族国家を色濃く感じされるが、国民というアイデンティティをデジタル化することによって、制度上民族と市民権あるいは人権のアンバンドリングに成功した。このスピーチではダイレクトにe-residencyに言及していないが、物理的な居住地と保護される人権を分離したことによって成長の緒についたのだ。恐らくEUを躯として、エストニアがパラダイムシフトを牽引する。
恐らく、自分が生きている間に目にすることはできないだろうが、ある意味で、いまとは全く違うレベルの平等が実現され、今の国という区分はなくなるだろう。私には、そういう未来を予想させるスピーチだった。エストニアの未来に期待している。