資産課税と自助、共助、公助

2020年11月17日の日経新聞のサイトで『コロナ後の税制改革の展望(下) 資産課税の累進性 高めよ』という記事を読んだ。

世界は、天災(act of god)級の災害が発生した時に、国、政府はどうあるべきか、という問いに直面している。単純化すると、お金持ちが我慢でして貧乏な人を救おうとするか、貧乏な人を見捨てて生き残れるものだけで未来を考えるかだ。後者が公助なしの自助である。あるいはマクロ的にはアメリカファーストのような考え方と言っても良い。

政府の統計によれば所得の中央値は概ね360万円。国民の半数の所得税負担率は4%を下回っている。所得が360万円でも家賃または住宅ローン返済額が10万だと、持てる者との支出との差は年120万円ある。固定資産税が10万円だと110万円の可処分所得差になる。もし、20万円にすればそれが100万の差に縮む。資産があれば最悪借金ができるから、360万円の所得が仮にゼロになったとしてもすぐには食い詰めることはない。しかし、資産がない人の場合は、所得が減っても経費は減らず、可処分所得に直接響く。どうにもできなくなって絶望する人が出るのは避けられない。

特別定額給付金は強力な公助の形である。政府が個人の状況を全て掴むことはできないので、例外なく当座資金を供給した。ただし、財源を確保しなければ、持続性はない。10兆円撒いたら、10兆円集めないと繰り返すことはできない。資産課税の累進性を高めるというのはその手段となる。固定資産税を上げればその解になり得る。固定資産税は地方税で年間9兆円。これを3倍強にすれば、毎年年間20万円の定額給付金を撒ける。資産を持っていないことでつらい思いをしている人をある程度助けることが可能になる。

もちろん、頑張って頑張ってローンを払い終えた不動産を固定資産税が払えなくて手放すことになるとすればかなり悲しい思いをするだろうことは想像に難くない。一度手にしたものは失いたくはない。また、今資産を持っていなくても、頑張って頑張って貯めてある水準までたどり着けば安心が待っていると思えれば、資産税が低い方が良いと考えるだろう。記事にあるように、所有資産から得られる所得に累進性を持たせれば資産課税を強化することができる。この方式だと自分で住んでいる不動産は所得を産まないので、固定資産負けする人は減らせる。

自助、共助、公助の検討に戻ると、アメリカはとてもわかりやすい例となっていて、人口の1%の人が99%の資産を独占していると言う。そして、その1%の人の資産の伸び率が残りの人たちよりも大きい。共和党は公助最小化指向で、トランプの非道にも関わらず高い支持率がある。実際には、本当の受益者は1%しかいないのに、大きな政府は嫌なのだ。民主党でも公助より共助でという勢力の方が強い。日本との比較で考えると、所得の中央値はアメリカより日本の方が高いという情報があり、平均値では、2~3割アメリカの方が高い。国民一人あたりだとアメリカの方がリッチだが、庶民の生活水準は日本の方が高いのである(購買力平価では中央値でアメリカの方が1.5倍あるという説もある)。また、保有資産の中央値では、日本が1,000万を超えているのに対して、アメリカは3~4割低い。移民の国ということもあってか、資産も収入も少ない貧乏な人が多いので、自分を相対的に高く評価する傾向があるのだろう。それが格差拡大を容認する方向に動き、全体で見ればより多くの人が貧乏に向かう決断をしていると考えるのが適当だろう。

翻って日本はどうか。どう見ても富裕層優遇のGoToキャンペーンを喜ぶ声はあるし、特別給付金の10兆円は失敗だったとする声もある。私は、天災級の問題が起きた時にまず考えなければいけないのは、生命を守ることだと思う。自殺者が増えているのだから、GoToのような経済政策を打たなくちゃ駄目だというのは詭弁だ。特別定額給付金が十分ならば思いつめたような自殺は減るだろう。誰が次の候補なのかは政府はつかめないのだから広く撒くしか無い。そのために撒く金を集める方法を考えるしか無いと思う。政治にはカネがかかる。人数が少なくても、資産家、富裕層の意向は大きく効いてしまう。だから、政治家には選び難い選択肢となるが、平均以上の所得があるところに向けて、資産課税の累進性を高めるというというのは合理的な判断だと思う。所得平均値以下の主権者は5割を大きく超えているのだ。私は、一人でも多くの人が共に生き残ることのできる公助強化の選択を行うべきだと思う。それは決して個別の競争を否定することではない。

画像は、日経の記事から引用したもの。

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