アベノミクスのこと

hagi に投稿

アベノミクスが提唱された時、私はこれは博打だと思った。一方で、期待する思いはあった。

2010年前後はバブル崩壊後の失われた10年、20年と言われていて、外国に行くと、次々と日本の看板が韓国のもの、中国のものに入れ替わっていて退潮感があった。正直、悔しいと思った。第二次安倍政権が誕生した2012年はスマホでは国産のものより韓国製のほうが先進的で使いやすいと感じていたし、日本から次の新しいものが出てくる気配もなかった。アベノミクスの金融緩和で実業界を刺激し、新規投資が容易な環境を提供すれば新しいものが生まれてきて、やはり本物は日本から来ると世界から見られるような栄光が取り戻せる可能性があると思った。ただ、金融緩和は借金を増やすことだから、積んだ借金を超える成果を出せなければ破綻してしまう。だから、その道を踏み出すことは負けられない博打を打つのと同じだ。不安に感じたが、何もやらなければさらに落ちていくのは必定だから、政策としてはありだと思った。

アベノミクスの3本の矢は以下のように書かれている(アベノミクス「3本の矢」)。

  1. 大胆な金融政策
  2. 機動的な財政政策
  3. 民間投資を喚起する成長戦略

そのページでは「アベノミクスの本丸となる「成長戦略」の施策が順次実行され、その効果も表れつつあります」と書かれているが、実際には成長は実現しなかった。残ったのは膨大な借金だ。

大胆な金融政策は10年が経ても継続されている。国の借金を増やして投資原資を供給しているのだ。低金利は民間企業にとって借金を容易にするので、新規事業への投資余力は相当拡大された状況が続いている。キャッシュが続く限り事業は継続できるから今利益が出ていなくても、やがて儲かるようになって返せば良い。ただ、時期が来るまでに儲かるようにならなければ、借金を返せなくて破綻してしまう。金融緩和で供給された金は回収できなくなり、結果的に国富が失われることになる。

話が大きいから、難しく考えがちだが「借金して良いから挑戦しなさい」といって金を貸したが、挑戦して成功する人が少なくて借金の回収はできませんでしたというのが今の状況である。しょうがないから、さらに借金を増やして、何とか挑戦してくださいと言って成功できていない人にさらに金を貸しているというのが現状だ。もちろん、挑戦してもみなが成功するわけではない。私自身、自分の会社で挑戦は続けているが、とても成功しているとは言えない。前職の蓄えがあったり親族の支援があったから無借金で維持できているが、維持できてるだけでは国際競争力の助けには全くならない。世界からお金が入ってくるような製品やサービスを開発できなければ退潮から抜け出すことはできない。かつて、アメリカで売れ、世界で売れる車や家電を開発したようなものの現代版が必要なのだ。

ベンチャーキャピタルは「民間投資を喚起する成長戦略」を事業として進める主体である。ベンチャーキャピタルも資金を集めて新規事業を開発したり、事業を拡大する主体に投資して果実を得、資金供給者に還元する。投資に失敗すれば、ベンチャーキャピタルは破綻し、資金を出したものは回収できない。博打に負けたのと同じである。かつてシリコンバレーに通っていた頃の熱気と厳しさ、ベンチャーが目まぐるしく入れ替わる様は衝撃だった。ほとんどが消えていく中で、ごく少数が成功する。成功者がでなければベンチャーキャピタルも消える。ベンチャーからキャピタルに移る人もいる。全てが真剣勝負だ。

アベノミクスは、国がベンチャーキャピタル役を担い無条件に国民全員を巻き込んだ博打だ。私を含む有権者は安倍政権を支持することでアベノミクスという博打を打つことに決めたのだ。そして、現時点で博打は敗色濃厚である。まだ、借金を増やすことができているので、博打を続けられているが、借金ができなくなったり、筋の悪い貸し手に頼るようになったら、国は壊れ、国民は自由を失う。

しかし、既に勝負には出てしまったから、なかったことにはできない。冷静に考えれば、将来儲かるようになるような事業か、もう諦めたほうが良いものかを選別して、成功への道を探らなければ先はない。借金が残ったという意味では、バブル崩壊後の整理と基本的には変わらない。恐らく、バブル崩壊後の整理では将来の芽を詰んでしまっていた。育てるべきものを守れなければ、未来は明るくならない。

様々な問題で、苦しむ人は多い。ギリギリで維持できている会社、延命している会社も少なくない。何とかそういう会社を助けなければいけないという声はあるし、倒れてしまえば失業者も増える。一方、将来の芽を詰んでも直近の影響はない。むしろ、赤字の会社がなくなれば統計的にはプラスに働く。ここが難しいところだろう。あえて厳しい言い方をすれば、アベノミクスは育てるべきものを守らず、将来につながる可能性の高くない所に金を投入してしまったと言える。科学技術研究や教育分野への資金投入も成功しているとは言えないだろう。今の暮らしを守ることも大事だが「成長戦略」の巧拙は全体の将来を左右する。

新しいものが形になるには、いくらサイクルが短くなっているとは言え10年はかかる。予備軍がどれだけ出てきているかはわからないし、運が良ければブロックチェーン界隈などで既に臨界点を迎えつつある法人もあるかも知れないが、恐らくまだ相当忍耐が必要になるだろう。個人的には、そういうスタートアップを活用する企業への優遇策などがあっても良いのではないかと思う。政府には、競争環境を制御できる力がある。恣意的なことが起きればたまったものではないが、うまくいけば果実は大きい。太陽電池や自動車分野ではそういう動きがあったが、重厚長大産業偏重感は拭えない。国がWeb3に張るのはありかも知れない。自民党は利権確保に走りそうなイメージがあって好きになれないのだが、良く勉強していると思う。一点突破ではなく広く成長戦略を練ってもらいたいものだ。

新しいものの立ち上がりにまだ時間がかかるとすると、ギリギリで維持できている会社を多少金利が上がっても自走できる企業に変わることも必要になる。産業構造の転換は、失業者の出現を伴うから再教育環境も重要となる。成長戦略は人的リソース計画と密接に関わる。「再チャレンジ」は重要だ。

私は、安倍氏が言った3本の矢も再チャレンジも女性活用(活躍)も、それらの言葉には今も共感する。しかし、それらの良いキーワードは実際には本当に大事な部分は実施されることはなかった。

安全保障で煽られているが、経済力なくして国を維持することはできない。もちろん、企業も研究開発、事業開発を継続しなければ生き残ることはできない。兵站あっての安全だ。

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