まもなく創業10年

2013年3月28日にユビキタスライフスタイル研究所を創業し、まもなく10年になる。53歳で起業して63歳になった。一生働くつもりなのは当時と変わらないが、ぼんやりと目指していた国際的多拠点生活は実現できていない。

ここのところ次の10年のことを考え続けている。重点テーマはコミュニティ・ホスティングだ。

2013年の所信表明から作成した「私たちの使命」には以下のように書いてある。

生活者の持つ能力や意欲は企業・団体だけに向かうという事はあり得ないし、企業側だって決して安泰ではないから100%の相互依存など空想に過ぎません。生活者の観点に立てば、収入を得る為に所属している企業・団体で十分な働きをしなければならない事は当たり前だとしても、同時に環境の変化に耐えられるように自分の生きる力を高めていく必要にも迫られる時代です。地震などの自然災害や様々な理由により故郷を離れたり、場合によっては国を出て生きていく必要があるケースもあります。場所にしばられることなく持続的に生き抜いて行ける社会は自由度の高い望ましい未来だと思います。

この10年の間にテレワーク技術は進化し、場所に縛られない働き方は現実のものになった。2014年には、エストニアがe-Residency制度をスタートし、e-residentになれば、居住地を移すことなくエストニアでEU企業を起業することもできるようになった。A borderless digital society for any global citizen to join.という画期的な取り組みで、経済基盤を物理的な場所から外すことのできる時代となった。同じく2014年にWeb3が提唱され、特定の政府に拘束されない経済空間が出現した。もちろん、緒についたばかりでまだ未来が見えてきているわけではない。それでも、明らかに時代は動いている。

2013年に書いた文章は、マルチコミュニティ、マルチプレースで生きる未来を目指していて、それにユビキタスライフスタイルという言葉を与えた。私のこれまでの取り組み同様、実現力が足りていなくて時代をリードするようなビジネスを育て上げることはできていないが、これまで同様倦まずに続けていけばチャンスは来るだろうと思っている。前職29年間でも自分が重要な働きができたと思うビジネスは2回だけだったのだから、焦ってもしょうがない。

まずは、急拡大を続けているコワーキングスペースを中心とした共用ワークスペースに注目して、企業・団体にも生活者にも関連サービスを提供する事業者にもメリットのあるサービスの実現のために研究開発を進めていきます。

2013年の所信表明では、ワークスペースに注目すると書いた。当時は、世界中のワークスペースの統一予約システムを作れば、きっと成功できると考えていたが、実際にはシステム構築はうまくいかなかったし、同様の構想に取り組んだプレーヤーでも成功者は出ていない。一方で、ワークスペースプロバイダーはどんどん増え、不動産のフレックス化は進んだ。

当時のコワーキングスペースの重要キーワードはコミュニティだった。企業人だった自分は快適なワークプレースの確保には熱心だったが、コミュニティの重要性には十分な理解ができていなかったと思う。恐らく、今の多くのテレワーカーは10年前の私の感覚と大きく違わないのではないかと思う。

コミュニティにとって多様性が重要だということに気がついたのは、コワーキングスペース通いより、地元のカウンターバーなどに通うようになったことが大きい。お店によっている人に偏りがあるし、ある程度距離が詰まってくるとどのお店にも自分の経歴で出会ったことのないすごい人がいる。自分と異なる環境で生きている人の話を聞くのは参考になる。同時に、十分な時間、接点を確保しなければコミュニティとしてのアウトプットを出すことはできない。カウンターバーはアウトプットを出す目的などそもそもないが、イベントからビジネスに育つような事例はある。

この10年間に関わってきたDrupal等のオープンソースのコミュニティ活動もとても参考になった。コントリビューションモデルの背景には、個々の自立が不可欠で、上司もいなければ部下もいない。活動資金は必要で、義務はなくてもオープンソースで儲けている主体が支えなければ持続性がない。支えやすい仕組みにも工夫が尽くされていて、蓄積された集合知あるいはシステムが活用されている。

日本では既に大量定年時代は到来している。韓国はさらに深刻かもしれない。中国も想像を絶するスピードで少子高齢化が進む。社会保障に頼るとしても、企業の従業員として働くような形とは異なる形で自立して生きていかなければならない時期は目前に迫っている。今後、様々な付加価値を生み出すようなコミュニティが動き出すだろう。e-residencyを含め、会社組織として立ち上げるハードルは十分に低くなっていて、解かねばならない社会的課題は山のようにある。オープンソースソフトウェアの高度化も、クラウドサービスの高度化も、コミュニティ活動のベースラインを押し上げている。まだ、その可能性に注目している人は少ないが、これから10年という時間軸で見れば、大きな変化が起きるだろう。

もちろん、変化が起きるとしてもどのような形で社会が変わるかは予想できない。コロナがなければテレワークは今ほど加速しなかっただろう。例えば、2012年から挑戦を始めたドイツのCoconatは2017年には長期滞在型の田舎のコワーキング、コリビング、ワーケーションを立ち上げているが決して楽勝だったようには思えない。コンセプトと方向性があっていたとしても生き残れるかどうかはわからない。今後、物理的なロケーションとコミュニティの関係、マネタイズの形態は大きく変わるだろうが、まだどうなるかはわからない。

コワーキングスペースのそれとは違う形で、コミュニティ・マネジャーはキーパーソンとなっていくだろう。

今後10年、毎年1件以上はコミュニティホスティングに関わっていきたいと考えている。果たして73歳の私はどのようになっているだろうか。

※写真は、2013年8月6日、オスロのMESHというコワーキングスペース。所信表明を固めてから世界のコワーキングスペースをめぐる旅が始まった。この年の11月にバルセロナのCoworking EuropeでCoconatのJulianneに会っていた。Coworking Europeは私が属する重要なコミュニティの一つで、場所に縛られないコミュニティの手本でもある。

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