冒頭の画像にあるようにgoo地図が2023年9月27日に終了する。OpenStreetMapの投稿で知った。
OpenStreetMapは19年目。goo地図は23年なので、4年ほど先輩ですね。地理空間データの共有プロジェクトと地図サービスは別の土俵ではありますが、これまで本当にお疲れ様でした、と言わせてください。 https://t.co/vo7BdLHCEs
— OpenStreetMap Foundation Japan (@osmfj) August 17, 2023
改めて、今後どうなるかを考えてみた。
https://openstreetmap.jp/に「OpenStreetMap(OSM)は、誰でも自由に地図を使えるよう、みんなでオープンデータの地理情報を作るプロジェクトです。」と書いてある。英語では、”OpenStreetMap is an initiative to create and provide free geographic data, such as street maps, to anyone. ”(OpenStreetMapは、地理データを作成し、道路地図のような形で、誰でも無料で利用できるようにするためのイニシアチブです。)とあり、プロジェクトではなくイニシアチブという用語が用いられている(https://wiki.osmfoundation.org/wiki/Main_Page)。
Googleでproject initiative differenceを検索すると以下のように出てくる(日本語は機械翻訳)。
What Is the Difference between Initiatives and Projects? Initiatives are broader and long-term efforts aimed at achieving a specific company goal or vision, whereas projects are specific, short-term endeavors with defined objectives and deliverables that contribute to achieving an initiative's goals.
イニシアティブとプロジェクトの違いとは?イニシアチブは、特定の企業目標やビジョンの達成を目的とした、より広範で長期的な取り組みであるのに対し、プロジェクトは、イニシアチブの目標達成に貢献する、明確な目的と成果物を伴う具体的で短期的な取り組みである。
個人的な感想としては、イニシアチブは方向性が示された活動で、プロジェクトはゴールが示された活動だと思っている。どちらにしてもやることに大差はない。プロジェクトにもサブプロジェクトはあるし、サブプロジェクトにイニシアチブを設定するケースもある。
私は日本語版の「誰でも自由に地図を使えるよう」という表現にはちょっと違和感を覚えていて、such as street mapsを一例と捉えている。人間にとっては、地図という視覚に訴える表現形態は極めて重要なのだが、本質は地理情報データを作成(収集)し誰に対しても無償で提供することにあると思っている。現代であれば、それは3D+Tのgeospatial dataと改定したほうが良いだろう。コンテンツは地物に限らない。
地理情報検索の重要性は誰でもわかる。gooは1997年にNTTグループが立ち上げた検索サービスで、Googleが法人化したのは1998年だからその前のことだ。検索サービスをやれば必然的に地理情報は対象となる。当時、私も日本でインターネットをどううまく使いこなしていくかを追求していて、NTTグループが本気を出してきたらかなわないのではないかと感じたのを憶えている。ちょうどシリコンバレーVCモデルが機能し始めた時期で、将来莫大な利益を生み出しそうなビジネスアイディアにお金がつき始めた頃だ。投資家の視点だと、市場の大きさが気になるので、シリコンバレーでは世界を席巻できる技術かどうかがポイントとなり、世界中から人を集めて、世界中に売る考えが育ちつつあった。一方で、日本は十分市場が大きかったので、日本のマーケットでどう稼げるようになるかに焦点が当たっていた。今振り返ればスケールが全然違った。地理情報の質も日本はとても高かったと思うのだが、その高さ故にグローバル対応が鈍ったように感じる。米軍の活動範囲が広かったことで、広域視点が高まった面もあるだろう。軍事技術は無視できない。
一般ユーザーから見ると、地理情報検索はまずインタラクティブマップを意味する。今なら、Google Mapだろう。しかし、駅すぱあとも地理情報検索だ。駅情報+便情報を扱い、意思決定を支援する。必ずしも座標情報を必要としない。Google Mapでも乗換案内はできるが、経路検索機能をGoogle Mapにマップ(描画)しているに過ぎない。例えば、フィンランドだと駅のホームにIDが振られていて、もちろん座標が割り当てられているけれど、経路検索はホーム単位にブレークダウンできるようになっている。精度が上がれば、ホーム感の徒歩移動の所要時間も問題になるから、どんどん複雑になっていく。駅は平面ではない。そして、航空機は日々広域を飛び回っている。
改めて、「”OpenStreetMap is an initiative to create and provide free geographic data, such as street maps, to anyone. ”(OpenStreetMapは、地理データを作成し、道路地図のような形で、誰でも無料で利用できるようにするためのイニシアチブです。)」を考えると、利用者の視点で見ればGoogle MapはOSMよりはるかに先に行っているように見えるが、実は地理データそのものは誰でも無料で利用できるようになっているわけではない。Googleのデータベースに収納されている元データで公開されていないものは山のようにある。公開されている機能はいわば氷山の水面上の部分のようなものだ。
私は、OSMの思想、志に共感する。何とか、達成できないかと思う。地理情報あるいは地理空間情報を人間が見える形にするためにはUIが重要な役割を果たすのだが、本当はマッピング技術、検索エンジン、データ(スキーム)の集合体で構成されているので、OSMはもっとデータ、データスキーマ、データストアの課題に注力して欲しいと思うのである。もちろん、地理空間情報データを集めるためには、人間が使いやすいデータ作成機能が必要なのだけれど、行政情報のオープン化あるいは、制度設計によるデータ発生源からのオープンデータ供給の強制などで収集できるデータは多い。日本というデジタル・ガバメント後進国が担える役割があるのではないだろうか。これから、国家データ基盤を再構築しなければならない現実を見据えれば、OSMの課題解決に通じるような研究開発を頑張ってオープンソース化することで、グローバルな社会基盤の向上に貢献できる余地はある。
民間企業は、その課題解決を行うために最短経路を目指して投資する。デジタル・ツインなどお遊びに過ぎない。しかし、インフラレベルが上がれば、少ない投資で手の届く解決課題が広がる。Googleに依存するよりも良いオープンで安価な方法が見つかればリスクは下がる。そういう意味でもOSMの発展に期待したい。一方、OSMがGoogleと互角に戦えるようになるには、必要な投資はとても一国では足りない。ただ、技術面でのデータスキーマ、データストアといった基盤と制度設計を組み合わせれば、時代が変わる可能性はあるだろう。
見栄えの部分に惹かれすぎずに、土台の底上げをやれる方法はないものだろうか。世界の底上げに貢献できれば、必ずその国にも投資のリターンがあるはずだ。民間の廃業から学んで、国の単位で再興できたら良いと思うのである。私はgoo地図は始まりに過ぎないと思っている。やがてデジタル公共財を育てていく時代に変わっていくだろう。しかし、知恵を絞らねばならない。