書評:障害者の傷、介助者の痛み

hagi に投稿

日経新聞の2019年3月2日の書評でこの本を知って、まずKindleの無料サンプルを読んで購入。今日、読み終わった。

本文は『I 相模原障害者殺傷事件をめぐって』『1 亡くなられた方々は、なぜ地域社会で生きることができなかったのか?』から始まって『IV 奪われたつながりを取り戻すために』『14 言葉を失うとき』で終わる。

最初から最後まで驚きと発見の連続だった。障害者総合支援法(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)と介護保険法の考え方の違いも知らなかった。

調べて見ると、障害者総合支援法では「障害の有無にかかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会の実現」が目標となっていて、介護保険法では「国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図る」とある。歴史の差も感じるが、障害者総合支援法で支えられてきた人が介護保険法の適用対象になると様々な不具合に直面する事も初めて知った。

相模原障害者殺傷事件は知的障害者福祉施設で起きた。『1 亡くなられた方々は、なぜ地域社会で生きることができなかったのか?』という問いは問そのものが直感的に理解できない。知的障がい者は施設の外では生きて行くのが難しいのだから、そういう人の居場所となる障碍者福祉施設があれば立派なものじゃないかと思っていた。しかし『14 言葉を失うとき』を読むと、当人にとっては檻になっていて、その檻に閉じ込められて心のある人間として接してもらえないと言葉を失い、意思疎通の能力を失う可能性がある事が分かる。隔離された空間ではなく、相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会に生きる事ができれば、より豊かな未来が待っていると感じられた。

事件の被告は「私は意思疎通がとれない人間を安楽死させるべきだと考えております」と書いているとあり、隔離ではまだ足りない、生者の世界から排除せよと主張している。障害者総合支援法の理念の対極にある考え方だ。

加齢は、人を障がい者にする。「障害の有無にかかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会」が実現していないと障がい者は人格と個性が尊重されない排除の対象となる人のままだから、加齢で不自由になった人は自分を障がい者と見なすことは自尊心が許さない。ちょっと考えるとおかしなことだ。

心的外傷が他者への心的外傷の原因となり、不幸の連鎖を生む。傷ついた障がい者が介助者を傷つけ、傷ついた介助者が障がい者を傷つける。物理的な虐待も悲惨だが、心的外傷は伝染するのでむしろある種の病だと感じた。

「障害者の傷、介助者の痛み」は、この病に関する研究書でもあると思う。

一点、残念に思ったのは、複数の文書を集めて一冊の本になっているため、章によってよって立つ考え方が少しずつ違うところだ。そのために、幾度か困惑させられた。それでも、私はもう一度、あるいは何度か読み直そうと思う。