国籍を選ぶということ

hagi に投稿

アメリカ人に帰化するという事と日本国籍を喪失すると言う事』という記事を読んで、日本の魅力って本当は何なのだろうと考えさせられた(この記事はFacebookで上げたものに手を加えたもの)。

私がアメリカに住んだのは、2009年の春から2010年一杯と短期間だったが、VISAの更新に困っている人とか、日米両方のパスポートを持っている人とか、永住権を持っている人、返上を決断する人とかいろいろなケースを見た。

「日本国籍を有する者が自己の志望により外国籍を取得した場合には自動的に日本国籍を喪失する」のは知っていたから、自分が米国籍を取得することは真剣には考えていなかった。日本人であることがあまりに当たり前のことだったので考える必要も感じなかった。

国籍のことを考えるようになったのは、Coworking Europeに参加するようになった2013年以後だ。アフリカから移ってきた人やウクライナから来た人がいるし、バルト三国のように最近(再)独立した国があって、国境も国自身も今もなお変動的なのである。2004年にポーランドなど多くの国がEUに加盟していて、UKはいよいよ離脱移行期間満了を迎えようとしている。Coworking Europeを通じていろいろな人の存在に触れ、意外と市民権が安定したものでないことを感じるようになった。

この記事では「苦労もしたけど、チャンスもくれたのがアメリカでした。そういう思いもあって市民として選挙権も行使して、積極的に社会に参加したいと思ったのでした」とある。言い方を変えれば主権者となることを選択したということだ。逆に、アメリカはVISAが更新できる限り、権利は市民とさほど変わらない。損得で考えると、永住権が取れていればアメリカ市民権を取りに行くメリットはあまりないと思う。

一方、欧州だと、国籍はより権利と結びついている。UKからアイルランド等のEU国の二重国籍を取る人が増えていたりするのは、欧州市民に与えられている権利の価値を高く評価する人が少なくないということだろう。自覚的に権利を取りに行っているという形だ。移住権、就労権、健康保険サービスの権利などを含め、EU国籍を取得することは義務も伴うがメリットが大きい。

マイナンバーと欧州のeIDでわかる政府の視点の違い」で書いたが、EUと国の関係は示唆に富む。人権の定義の共通化が基本となっていて、Home countryとHost countryという考え方が、だんだん常識になりつつある。域内で人権が保証されることがあたりまえになると、自分がどの国の制度に関わるかを自分で考えることになる。経済的に苦しい地域にいる人は単純に、より良い生活を求めて移動するが、多くは母国への愛着が深い。日本の地元愛と共通するところがある。しかし、多様な人と触れているとだんだん変わってくるように思う。地元愛を失うわけではないが、自分で決めるという意識が表に出てくるように思う。アメリカは、人工的に多様性を制度に織り込んだ国だと思う。抽選でグリーンカードを発行する制度はその象徴だろう。しかし運であっても既得権を得ると、一定の確率で守旧派に堕ちる。排他的になってチャレンジャーの機会を削ぐように動いて、活力を失っていくのだ。いよいよ今日がアメリカ大統領選挙の日だが、今日のアメリカの主権者の判断は時代を(たった)1年進めるか10年あるいは100年戻す効果があるだろうと思う。安倍のような扇動者を世に出してしまうと、あっという間に100年位時代が巻き戻ってしまう。もちろん、単なる偶然で振り子が振れているだけだとは思うのだが、慎重に対応しないと大量の人死が出るのは今も変わってはいない。数年で大きく巻き戻してしまった時間は、しばらくの間は、短い時間でぐっと進めることも可能だと思う。しかし、しばらく経つともう一度1年進めるのに1年かかるようになってしまうと思う。だから次のアメリカ大統領の選択は本当に重要だと思う。現実にはまだ安倍ほど時計を巻き戻せてはいないからだ。

日本の国籍を持っていることを感じられる価値として大きいのは皆保険だ。また、既に歳をとっているので近未来の年金の受給権は自分にとって大きな価値である。しかし、それは将来世代に対する負荷であり、それが激しく重いと考えれば若い人は出ていくだろう。アメリカはチャレンジャーに環境を与えることでここまで来たけれど、今は格差の問題にあえいでいる。ただ、主権者になって社会に参加したいと思う移民が多いということは希望が失われていないということだ。日本ももっと出入りの多くなりやすい制度に変更していかないと、国が老いて魅力が減っていってしまうのではないかと心配になった。でも、きっと大丈夫だろう。

画像は、ニューヨーク在住1年目の年末。雪が降っていたが、暖色系のライトアップが美しいと思った鉄道駅。このHyattがトランプの詐術の始まりだったと聞く。今年は、30年以上ぶりのアメリカ滞在のない年になりそうだ。