選民意識に煽られると歯止めが効かなくなる

hagi に投稿

為末氏のTweetを読んでショックを受けた。

どう考えても、国民が強国化を求め、世論が戦争を求めたとしか思えないのに、為末氏は全くそう思っていなかったということにショックを受けた。ドイツもそうだと思うが、国民が独裁者を育て、専制と隷従の社会を作り出すのだ。キーワードは選民意識だ。

第二次大戦前には確かに、戦争に反対する声はあったが、日本人の誇りを体現しようという声に呼応して高揚感を感じていた人が増えていき、ある点を超えると同調しない人が非国民と言われるようになったというのが私の理解だ。国民性による強弱はあるかもしれないが、真面目にコツコツ頑張る人がもっと報われてよいはずだと思いたくなるのは世の東西に関わらず人間に生ずる自然な感情だろう。そして、少ないながらも私の経験では、どの土地に行ってもほとんど全ての人は善人だ。そして、異質なものに対する恐れをもっている。実際には身内がみな仲良しということはないのだが、外を意識すると一時的に団結できるのも普遍的な性質だと思っている。

日本は、欧米に比べて明らかに貧しかったし、武力でも劣っていたから悔しく感じるのは自然だし、頑張って追いつき追い越して豊かな生活を手に入れたいと考えるのは当たり前のことだと思う。認めたくない人もいるかも知れないが、中国や朝鮮に対する劣等感もあった。欧米から学び力をつけて、中国や朝鮮より強くなった(ように見えた)時には相当嬉しかったと思うのだ。ロシアもヨーロッパだから、ロシアに勝ったらいよいよ欧州諸国に追いついたと嬉しかっただろう。もうちょっと頑張れば「善良な」世界の支配者になれるのではないかと思った人は少なくなかっただろう。

外国から見れば、日本は明らかに侵略者だが、移住してきた日本人に対する評判はそんなに悪くない。現地の人にもよるし、個々の日本の人たちの行動にもよるが、評判の良い人も少なくなかったようだ。日本の進出によって生活が改善した地域もある。技術導入と経営で産業が立ち上がったケースもある。下心無く大東亜共栄圏の実現に力を出していた人はいたと考えている。日本の領土拡大は理想社会の実現への道だと信じた日本人は少なくなかった。

ただ、それは日本人が優れているからだと考えるようになると悪夢に変わる。

自由が失われ、搾取が正当化されるようになる。その匂いを感じた人は存在していたが、自分たちは選民だと考えるようになると、選民でない人たちの人権が侵害されていてもそれは選民に生まれなかったからしょうがないことだと思えるようになってしまう。同時に、自国内でも権力者の横暴が正当化されるようになる。日本人の中でも特別な人なのだから一般の人とと違う扱いを受けて当然だという奢りが起きる。内側にも敵と味方に分かれる対立が起き、多様性が失われると新しい挑戦が減ってくる。やがて学び成長する能力が落ちてきて、破綻してしまう。

例として大陸への進出で考えれば、技術移転などで生活が劇的に向上する期間はずっと続くわけではない。一定の時間が経過したら、外から導入した技術とその場所で新たに開発される技術が拮抗し、しばしば逆転する。その力を合わせることができればさらなる成長や共栄が期待できるのだが、進出者の権益は失われる。権益が失われることを嫌って、制度を不公正にしてしまえば、今度は導入した技術を独自に進化させて独立を目指すようになるのは当たり前のことだ。反乱が起きるようになれば権益の維持は困難だし、進出してきた人たちが敵視されるようになる。個人の善意とは無関係に、侵略者の手先として扱われる。

ちょっと落ち着いて考えれば、選民思想に持続性など無いのである。

大ロシアの夢も中国の夢も、アメリカファーストも持続性はない。イエスの教えで言えば「『我々の父はアブラハムだ』などと思ってもみるな。」である。選民など存在しないし、選民思想に落ちた集団は必ず滅びている。ゲルマン民族の優位性やコーカソイド優位もない。もちろん、キリスト教にもイスラム教にも仏教にもそれ自身には優位性はなく、一色に染めることはできない。

自由だ。最も大事にされなければいけないのは自由なのだ。自由を求める人は他の人の自由も侵害しないように気をつけなければいけない。

日本人は他とは違うとか言う言動に惑わされてはいけない。第二次大戦中に他国の人の自由を奪ってきた罪はどれだけ時間が経過しようと消えることはない。その最初の一歩は、選民思想に落ちてしまったことで集団ヒステリーのスイッチが入ってしまったところにある。

今も油断してはいけない。まずは保守派を文科省から遠ざけたほうが良いだろう。保守は亡国だ。