ABWのモデリング

hagi に投稿

思い立って、ABWをUMLクラス図でモデリングしてみた。

突き詰めていくと、ABWの業務アクティビティは、ある時間帯に、どこかで何かを利用して成果を出すこととなる。

企業(組織)は実施すべき業務があり、その業務を従業員に割り当てる(アサイン)。一つの業務に複数の従業員がアサインされることもあるが、組織からすると結果として業務が遂行されれば良い。ABWは個人(従業員)がアサインされた業務の作業をある時間帯に、どこかのワークプレースで何らかのリソースを利用して実施する際に、それに適したワークプレースをどう準備するのが良いかというオフィスデザイン高度化への挑戦から始まったものである。

従来のオフィスは、自席と会議室くらいの分類しかなかったのだが、共同で仕事をする場合は、自席が離れているより固まっていた方が都合が良い(生産性が高まる)し、グループワークしていても、メンバーと距離を取って、一人で集中して作業したい場合もある。だから、自席をなくして、フリーアドレスにし、代わりに静粛ブースを用意したり、コミュニケーションを容易にするような場所を用意したりして、自席で働くというワークスタイルから、その業務アクティビティを実施するのに都合の良いワークプレースを自ら選びながら働くというワークスタイルが生まれた。Leesmanのサーベイなどから、そういった環境整備が従業員の経験を良いものにし、生産性の向上や離職の防止、企業の魅力を高められる施策であることがわかっている。

一方、ICT技術の進化で、出社せずに実施できる業務アクティビティは増えた。その結果、一部在宅勤務もできるようになったし、サードワークプレースでの執務も可能になった。外国にいても日本の業務アクティビティを実施できる場合もある。逆に工場設備を修理するような業務や、店舗での来客対応のような業務は、その場所にいなければできない。

ICT技術の進化によって、ネットワークストレージを利用すれば、デジタル文書のようなリソースはリモートアクセス可能となる。ZoomのようなWeb会議ツールを使えば、従来は実ワークプレースでしかできなかった接客業務の一部も場所に依存せずに実施できるようになった。携帯可能なPCやスマホ、タブレットなどが充実してくると、そういった情報機器を持っている従業員あるいは貸与された従業員のワークプレース制約は緩くなる。グループワークは同じ場所に集まってやると効率が良くなるが、始終話しているわけではない。実ワークプレースがバラけていても仮想ワークプレースで集まって仕事をするだけで十分効率を上げられるケースもあることは既に実証されている。個人的な経験としても、Zoomで接続しっぱなしの状態での執筆もくもく会は明らかに有効に機能している。メタバースを仮想ワークプレースとして利用するようになると、見た目での先入観がなくなるから、年齢や性別を意識せずにグループワークが機能することもあるだろう。ネットゲームの世界で、会ったこともない人とチームを組んで戦っていくという動きは、業務でも十分応用できる。実際、企業でもチームは組まされるものであって、知らなかった人とグループワークをすすめるシーンはいくらでもある。同じ社員であれば、一定の知識共有と安全性が担保されると思うからチームの立ち上がりが速くなるが、役に立たないチームメンバーと組まされて残念な思いをすることも少なくない。

既に、仕事に対する考え方は変わり始めている。立派な会社に入社して、その会社の役に立ち、会社を通して社会の役に立ち、その成果によって高い報酬を得たいという就社型から、組織が目指していること、例えば素晴らしいアニメーションやゲームが作りたいからチームに入り、ずれが大きくなれば次の組織でそのチャンスを探すと言った自己実現型就業への転換も起きている。もちろん、昔から自分のやりたいこと、なりたい自分に近づくために仕事を選ぶという考え方はあったが、技術の進歩、社会環境の変化でその壁はどんどん下がっている。まだ社会保障制度などが自己実現型就業者に対して不利になるような状況のままなので、才能が日の目を見る機会が増えているとはいえないが、グローバルに見れば大きなうねりが起きていることは間違いないだろう。

ある意味では、アメリカに行って働くというのはABWのプロトタイプだったのかも知れない。自分の才能を開花させられる可能性の高いところに自ら出向いていってキャリアを作っていくという挑戦だからだ。

ABWをモデル化してみると、自らの現在のアクティビティ実績がどうなっているかを分析できるようになれば、より少ない時間でより大きな成果を出すためのヒントを得られるようになることがわかる。同時に、流動性が高くなれば自分の能力をゴールを共有したいチームメンバーから頼りされるレベルに高めなければならない。アサインされた業務を実施しているだけでは、未来はひらけない。

改めて見直してみると、ABWは自律的な働き方で、経営がABWを意識するということは、従業員の自律性を高める環境を整えて、成果の増大を期待するということにほかならない。人材というリソースは機械のように管理することはできないが、環境を整えれば自ら育っていく。企業丸抱えモデルが崩壊しかけていることを考えると、ABWは政策的に進めたほうが良い課題なのかも知れない。

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