Linnahall

タリンの海沿いにLinnahallという廃墟がある。Wikipediaにも書かれているが、日本から見ると幻の1980年モスクワオリンピックの施設で巨大な多目的建築物。その後市庁舎となったが、持て余している内に廃墟度が上がっているように見える。ソ連という巨大国家の建造物として考えれば、特別なものとは思えないが、人口100万人台のエストニアには手に余るものなのかも知れない。

最初に訪れたときは前提知識のないまま散歩して雪の降る中で途中まで登っていた。2021年のことである。

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なんだか気になって、今年は昼の時間に行ってみようと思って今日決行した。

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少し角度は違うがほぼ同じ場所である。2021年のときには雪で分からなかったがかなり荒廃しているのが分かる。冒頭の画像から、この場所に来る前の最初の階段は左右にあるが、使えるのは多分右だけ。

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登ると、左側に誘導される。写真ではわかりにくいが、奥に入口が見えている。廃墟感半端ない。

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左側の階段は登れるので登ってみる。登ってみると、内側の方から上がってくる階段があるのも分かるが、左側に港が見える。

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更に進むとタリン湾、バルト海が開ける。荒廃する前はさぞかし人を引き付けただろうと思わされる。端まで進むと下りの階段があり、港の跡とヘリポートの跡が見える。かつては客船のターミナルだったらしい。

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階段を降りて振り返るとこんな感じ。

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そのまま海辺まで抜けられる。

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まだ完成してはいないが、海辺の遊歩道でターミナルAの方にも抜けられる。昨年に来たときより工事は進んでいて、景色は変わっていた。

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左奥に旧市街の教会が見え、真ん中にNEXPO会場の煙突、右側の木々の向こうにLinnahallが見える。

Linnahallは取り壊しになるか、再現を意識した再構築が行われる見込みで、やがて失われてしまうのだろう。私の代のタリンの人にとっては、若かった時の思い出の場所だろう。良い思い出もあるに違いない。

勢いで巨大な建築物に挑戦したくなる気持ちはわかるのだが、旬が過ぎた後を見ると、物悲しさがある。私達の時代には「大きいことはいいことだ」というスローガンがヒットしたが、振り返ってみると時代の暴走だったと思うのだ。タリンの街を歩いていると、今でも再独立30年のイケイケどんどん感はあるが、COVIDとウクライナ戦争でかなり勢いは落ちている。もちろん、まだまだどんどん行けそうだけれど、日本の戦後30年頃とは違う。Green、持続可能性が意識されていて、ICTの活用にも貪欲。きっと素晴らしい国になっていくだろうと期待しつつ、Linnahallのような遺産とどう向かい合っていくのかにも注目したい。

古いものは脱ぎ捨てていかなくては未来は拓けないが、脱ぎ捨て方は重要だと思うのである。

人類全体で見ると、ウクライナやパレスチナの人々、クルドの人々などを含めて誰ひとり取り残さない方針を採択しなければいけないだろう。もちろん、ロシアの人々もイスラエルの人々も誰ひとりの内側にある。廃墟を国威発揚に利用しないように気をつけなければいけない。力の象徴ではなく、反省と歴史の記憶として残すべきものは残せば良いと思う。

ちょっと感傷的な気分になった。

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