この記事はDrupal Advent Calendar 2023に寄稿したものです。本家のDrupal Associationがどうなっているかを知り、今後の日本でのコミュニティ活動をどう考えればよいのかを探るヒントを提供するのが目的です。
米国Drupal Associationの会計情報は、
https://www.drupal.org/association/accountability
で公開されている。そこから過去3年分の収入と純資産抜いてきたものが以下の表になる。ざっくり円に換算すると収入で5億円、純資産で3億円だから、決して小さな組織ではない。純資産が3億円を超えているから中小企業の範囲には収まらないと考えて良い。
2020 | 2021 | 2022 | |
収入(USD) | 3,359,461 | 2,953,363 | 3,798,342 |
純資産 | 1,402,856 | 1,979,731 | 2,409,436 |
収入(140円/USD) | ¥470,324,540 | ¥413,470,820 | ¥531,767,880 |
純資産 | ¥196,399,840 | ¥277,162,340 | ¥337,321,040 |
Drupalは無償のオープンソースプロジェクトで、法的にはDrupal Associationの管理下にある。無償のソフトウェアであっても原価は発生している。新たな機能を作成するコストもあるが、より重要なのはメンテナンスコストだ。セキュリティ問題を代表に様々な環境変化がある。ベースとなるPHPやフレームワークのバージョンアップもあるから、一度書いたものがそのままずっと動くわけではない。見た目では何も変わっていないように見えても、中身を日々更新していなければ使い続けることはできないのである。
支出の方はざっくり言えば、DrupalConが約1.4億円、drupal.orgサイトが約1.8億円、一般管理費が0.7億円といったところ。収入内訳ではイベントスポンサーが1.5億円、イベント参加費が1.2億円。広告収入は3千万円程度ある。後は、メンバーシップが1億円、寄付が7千万円。細かく読むと興味深い点は多くあるけれど、DrupalConで黒字を出して一般管理費を捻出し、メンバーシップと寄付でdrupal.orgを回しているという見方もできる。
ちなみに、Drupal Associationのビジョンとミッションは以下のように書かれている。
Vision
At the Drupal Association, our vision is a web that is innovative, inclusive, and open.
Drupalアソシエーションのビジョンは、革新的で、包括的で、オープンなウェブです。
Mission
Our mission is to drive innovation and adoption of Drupal as a high-impact digital public good, hand-in-hand with our open source community.
私たちの使命は、オープンソースコミュニティと手を携えて、影響力の大きいデジタル公共財としてDrupalのイノベーションと採用を推進することです。
改めて、わたしたちがDrupalを無償で自由に使えている背景に、PL規模が5億を超えるNPOが活動していることを強調しておきたいと思う。drupal.orgにセントラルリポジトリとして情報が整理され、更新されているのはDrupalの大きな特徴で、そこでセキュリティチェックもかかっている。ただ作り散らかしたようなオープンソースプロジェクトではなく統制された安心感がある。
残念ながら、日本語でのDrupalに関連する情報は少ない。UIの翻訳等はまあまあボランティアの力もあって他言語と比較して悪くない状態にはあるが、特に入門者にとってはエントリーレベルのドキュメントが少ないのは残念である。書籍も多くない。
今年はDrupal Campを岩国で開催することはできたが、100人を超える出席者が集まったのは嬉しいことだが、イベント開催の労力は大きく、特定の企業に依存してしまうことになる。企業の預り金などで会計処理をするのはある程度金額が大きくなると難しくなる。本家のようにイベントスポンサーで集金できる余地はあるが、公平性の確保や継続性の担保に難がある。持続的なコミュニティ活動を行うには、やはり本家同様日本での何らかの組織が必要となるだろう。
仮にアメリカの10分の1のサイズで運営したとすると、年間収入を5,000万円程度確保しなければいけない。国内メンバーが月千円、500人集まったとして600万円。イベントスポンサーや企業寄付を入れないと回せない。もちろん、もっと草の根的に小さく始めれば良いのだが、安定的に毎年100人以上の規模のDrupal Campが開催できるような方法は模索していかなければならないだろう。イベントだけではなく、Drupalの良さをもっと多くの人に知っていただけなければ維持コストを捻出するのは難しい。
岩国のDrupal Camp DENを契機に、新たな道の模索は始まっているが、本家Drupal Association同様Equity, Inclusion, Accessibility, Justice(公平性、インクルージョン、アクセシビリティ、正義)の確保は譲れない。SDGs同様誰ひとり取り残さない方策を模索する必要があるだろう。事業者の競争もあるなか様々な意見の違いを乗り越えられるような組織設計が必要となる。
2024年が、そのスタートの年になることを願ってやまない。
Drupal Associationははるかに先を往く先輩で、そこから学ぶべきことをしっかり学んで日本でも良質なコミュニティの基盤が整うと良いと思う。