FBの『GCUC Salt Lake City始まる』から転載、加筆したもの
GCUCに最初に出たのは2015年カリフォルニア バークリーが最初で、その後コロナ時期を除いて出席している。10年間でいろいろな変化があったが、今年のキーワードは大手サービスオフィス事業者の復讐といってよいのではないかと思う。もちろん、単立のスペースも頑張っているし、新規参入者向けトラックも100名以上の参加があり、勢いは衰えていない。
昨年2023年はシカゴで今年2024年はソルトレイクという大都市でない場所のせいか、出席者はやや少なめな感じ。とは言え、プログラムは充実しているし、参加者も300名程度にはなったのではないかと思う。GCUC本体は4月10日(水)で今年は平行セッションはない。
開催地ソルトレイクは人口20万人なので、文京区より少なく、土地はあるので人口密度は低い。大学キャンパスや中心部以外ではあまり人は歩いていない。トラムやバスは充実していて、車がなくても移動はさほど困らない。地元の人はレンタルキックボードも利用している。車などを使わなければ、どうしても最後の500m程度は自分の足に頼らなくてはいけないのはちょっと不便だ。ロッキー山脈のそばで4月なのに雪のある山をのぞむことができる。景色は美しい。道は広い。何もかにもが大きく、冬季オリンピックで開発が進んだと思われる街だ。
初日4月9日はCamp(初心者向けレクチャー)と上級者向けMasterMinds(運営等エキスパートの見解提示)の日。毎年は別料金で私は出席していなかったのだが、今年は全部が含まれているのでMasterMinds に参加。非常に興味深かった。
GCUCに出るたびにアメリカは本当に資本主義の国だなあと思わされるのだが、様々なプレーヤーが現れては消えていく。自分の強みを打ち出して、スケールするビジネスを模索するのが基本形となっている。コワーキングのマルチサイト運営をやるためには、個人技ではどうにもならないので、アグリゲーター(デスクパスのようなプレーヤー)やブローカー(商用不動産業者)と組んだり、ネットワークソリューションやシステムサービスの会社を利用したりしている。GCUCのスポンサー企業も少なくなく、ビジネスとしてのエコシステムが形成されている。基本的に自分で(自社で)なんとかしようとする日本型のビジネスモデルはマイナーだ。
一方で、単立のコワーキングスペースも沢山あり、言ってみれば単立の喫茶店や料理屋のような感じで、オペレーターの魅力等で大流行しているところもある。
GCUCでは、コワーキングスペースはホスピタリティビジネスというLiz提唱の基本認識が浸透しているので、(採算はもちろんだが)どう利用者満足を高めるかが議論の中心となっている。
午前のセッションでは、Wifi接続やトラブルでユーザーに負担をかけないようにすることや、大企業の要求品質に耐えられる管理のありかた、自社(スペース)の営業活動、ブローカー、アグリゲーターそれぞれからの集客をどうバランスさせるのか、カフェスペースのあり方についての議論があった。マルチサイト運営では、ユーザーの期待水準をどのロケーションでも満たさなければいけないし、カフェスペース自身は利益をうめないが、満足度には大きな影響を与えるのでエキスパートの意見も一致しない部分がある。何が正解という話ではないが興味深い。
カフェの話は、Industoriousの人がリードしていた。同社は2012年第1号店から順調に成長し65都市、160拠点以上の巨大ネットワークに成長させている。スペースから受ける印象も成長とともに変わってきていて昔より温かみは減っているように感じるが、商売としてはうまく行っているように見える。変化を受け入れられなければ成長はもちろん、持続性を確保することも難しいのがコワーキングビジネスなのだと思う。
ランチ前のセッションは、に出席。WeWorkの現職や過去Regusの人など長年サービスドオフィスに関わってきた方々の話。共通点をあえてあげればOne size fits allはないということ。つまり、WeWorkモデルでカバーできる範囲もRegusモデルがカバーできる範囲も限られているというのが現実。特にコロナなどの激変期には、固定的なモデルに依存しているビジネスの脆弱性が露見する。
WeWorkは終わった会社というイメージがあるが、実は死んでいるわけではなく、債務の減価交渉などを行い、様々な観点で削ぎ落として民事再生を進めている。まだ目があるというだけではなく、再度化けるかも知れないと感じられた。会場からの質疑応答には好意的な反応の方が勝っていたように思う。
GCUCに限ったことではないが、米欧のカンファレンスでは失敗談を発表してくれる登壇者がいるのがすごい。しかも、貴重な講演として聴衆が真剣に学ぼうとするところが素晴らしい。日本だと、恥ずかしがって発表してくれなかったり、せっかく発表してもらっても意地悪な質問が飛んだりすることがあるが、当地では失敗経験者の再起のチャンスも登壇から生まれるケースがあるように感じられる。
午後はCampのTechnology and Automationに出席。コワーキングスペースを始めようとする人にどんな整備が必要なのか、入手可能なITツールは何かを解説していた。聞いたことのないような技術やツールがあったわけではないが、改めてCampのプレゼンテーションを見て、その膨大さに驚いた。もちろん、一般的なスタートアップでも大半は必要になるもので、コワーキングスペースに固有なものは2割程度だったと思う。小さくやるなら、自分の手でやれば良いものでも、資金調達をしてスケールを想定しなければいけない場合は、先行投資をして省力化をやってしまうのは一つの考え方になる。ちょっと危ない言い方をすれば、アメリカの資本市場には多産多死が織り込まれていて、日本に比べると大きな調達を行ってキャッシュが切れる前に軌道に乗せるのが、安全運転より現実的という考え方に一定の理解があるように感じられた。乗り越えてしまえば、減価構造が良好な方が将来性が高いのは当たり前である。スピード命という側面もあり、多少リスクがあってもアウトソースや枯れていないソフトウェアに張る考え方もありだ。それが、新たなサービスベンチャー、ソフトウェアベンチャーの挑戦の成功確率を上げている面もあると思う。この点は、米欧という枠組みよりは、米国特有な感じは強い。
リスクの取り方がぜんぜん違うのだ。
GCUC 2日目(本会議)の最初の2つのセッションは、強烈だった。
最初は、元ZoomのChief Product OfficerのOded Gal氏のAIと働き方に関するプレゼン。Ciscoの会議システムをはじめとする様々な挑戦の失敗と変化、今後AIがどうインパクトを与えていくかという話。単純なところでは、会議室で会議に参加していても、Zoomのような世界では、一人ひとりの顔はリモートの人と同じように並べられるようになり、発話も一人ひとりが認識されるようになるという。
猛烈にインパクトが会ったのは、IWG(Regus)の米CEOのWayne Berger氏とLizの対話で、もう過去の会社と思われていたIWGがすごい勢いで変化しつつあることを会場の人々は思い知らされた。発表後の拍手も容易には止まらなかった。IWGは人口15,000人以上の全ての街にスペースを出す計画を進めていて、小さな町では4,000sqf(372㎡)程度の広さだと言う。ホームページでも大きさは可変と書かれているが、技術水準は高く、どんどん上げていく見込みで、自社管理オフィスを完全に乗り越える経験を与えるという。環境問題にも対応できるといい、ビッグビジネスの底力を感じさせるものであった。昨日のWeWorkの話もそうだが、単立のスペースとは全く視点が違う。Lizは両方の良さを見ているのが良い。
何だか、官僚が考えるようなことを民間が進めている感じで、すごい金が動いているからこそできる話だと思った。ADSLの時のソフトバンクの動きを彷彿とさせるものがあった。良いことばかりとは言えないが、当地では時代が動いているのがよくわかった。
その他のセッションで印象的だったのは最後のセッション、Why Innovation at Industrious is a Science, Not a Buzzword。NPS(Net Promoter Score)はもちろん、通勤距離と利用時間の相関などデータを取りまくって分析し、施策を打っている発表。IndustriousはNPSスコアはアップル以上と極めて高いがNPSは必ずしも契約維持につながるわけではなく、利用時間の多さの方が契約維持との相関が高いとのこと。ファイザーやシスコも顧客を継続していて、各社自社オフィスの満足度を越えるコワーキングスペースを作ることで利益を生み、持続的な成長を続けているようだ。気密性を重視する大企業の従業員がシェアオフィスで働いていても大丈夫な状態を作り、同時にメンバー間のコミュニティ機能を充実させてコワーカーが選ぶワークスペースにするという夢が実現できているということになる。驚異的なことだ。USでは、新興プレーヤーもすごかった。
以上で、本会議は終了。私にとっては、これまでの中で特に満足度の高いGCUCとなった。