WeWork事件とCoworking再考

WeWorkの創業者Adam NeumannがCEOを辞任するというニュースが19年9月24日付で報道されている。

Coworking Spaceは諸説あるが、英文Wikipediaによれば2005年にサンフランシスコで生まれたとされている。それから14年。WeWorkは様々な論争を生み出しながらもオフィスとCoworking Spaceの両方を再定義した企業だ。WeWorkは成功しているAmazonに類するものなのか、それとも消え去ったデータセンタービジネスのExodusに類するものなのかは分からない。ただ、仮にWeWorkがやがて消えてしまうとしても、データセンタービジネスが残ったようにオフィスのサービス化は止まらないだろう。

Serviced Officeというマーケットは古く1960年代からある。WeWorkは主に企業向けのオフィスサービスを提供しているので、Serviced OfficeマーケットからWeWorkを評価すると、膨大なオフィス床面積を調達して、標準化し、顧客に非常に柔軟性の高いスペースを提供した点で明らかに従来のプレーヤーと違う。その背景にはソフトバンクを含む巨額の投資があった事で初めて可能となったビジネス形態だ。従来のリーダーであるRegus(IWG)は、こつこつとビジネスを拡大しながら、M&Aを重ねて伸びてきた。一方、WeWorkは巨額の赤字をものともせずに資本力にものを言わせて、いきなりマーケットを席巻した新参者でもある。Serviced Officeの事業者からは、批判的な声が大きい。忌み嫌われていると言っても過言ではない。

Coworking Spaceは、もともとフリーランスまたはそれに近い組織に縛られない働き方をする人たちの需要を満たすもので、緩やかな自立的成長を続けてきた。技術の進化もあって、世界のコワーキングスペース数は年率2割成長を続け、コワーカーも年率3割成長を続けている。WeWorkは有能なコワーキングスペースの運営者(Community Manager)を引き抜いたり、コワーカーへの割引プログラムを準備してCoworking Spaceの前でビラを蒔くなど、自立的成長をあざ笑うような大資本的なやり方が目につき、Coworking Space関係者からはすこぶる評判は悪い。忌み嫌われていると言っても過言ではない。一方で、WeWorkはきれいだし、利便性も高く、価格は高いがWeWorkの会員であること自身もブランドとして使えるので、コワーカーの中には従来のCoworking Spaceを捨ててWeWorkに移った人も少なからずいる。

改めて振り返ってみれば、所謂事務職に従事する人にとって、オフィスは最初からCoworkingの場所であった。この文脈では、場所を共にして働くための場所という意味だ。文書を共有し、コミュニケーションをとるためには、事務所は便利で生産性が高まる場所なのだ。雇用主は、オフィスを準備することで、生産性を上げてもうけを増やすことができる。ただ、オフィスを準備するためには資本力が必要で、オフィスを構えられる事業者は限られていたのである。自社ビルがある事が信用の証でもあった。

新規参入事業者は金が足りないから、雑居ビルに入る。知らない相手と職場をある程度共にする事でコストを抑えてきた。士業などのビジネス規模が少ないプレーヤーが同業者が入居しやすいような共同オフィスを協会のように運営するケースもある種のCoworkingである。別にそれ自身は珍しい事ではなく、需要があればサービス化は進み、サービス内容は高度化低廉化する。WeWorkは、その発展形の一形態として考えれば良いのだと思う。本当にWeWorkのビジネスが持続可能かどうかは、まだ分からないが、私個人の視点で見ても費用負担が可能ならば魅力的なサービスであることは間違いない。安全で快適なワークプレースが世界中の様々な場所で使えるのは素晴らしい事だと思う。

WeWorkを考える時、もう一つちゃんと考えた方が良いのは、コミュニティの問題である。従来型のCoworking Spaceは、自立的に一人で稼いで行けるコワーカーがCoworkingする場所を提供した事を忘れてはいけない。逆に言えば、オフィスワーカーでない人は、Coworkingの場所を持たないので、ちょっとした問題解決でも自分で何とかしなければいけない。誰かに助けを借りたりすることはできないのである。オフィスワーカーは会社に行けば相談できるが、フリーランサーはそうはいかない。休職中の人、求職中の人、(定年)退職者、専業主婦も同じような不利を背負っている。Coworking Spaceは、明らかにその解の一つだ。WeWorkのコンシェルジュサービスはフリーランサーにとっても便利で、とりあえず聞いてみるのはOK。内部ネットで助けてくれる人を探しても良いし、助けてあげることで儲けにつながる可能性だってある。重要なのは、特定の業務を達成するために有効なCoworkingだけでなく、それ以外の助け合いの需要があり、Coworking Spaceはその需要も満たしてきている点だ。WeWorkは従来型のCoworking Spaceのようなメンバー間の助け合いを文化として考えているわけではない。しかし、従来のServiced Officeとは違い、メンバーとプロバイダという関係だけでなく、メンバーとメンバーのP2P的な関係の存在が念頭に置かれている部分は明らかに優れていると思う。

Serviced OfficeとCoworking SpaceはWeWorkによって完全に隣接領域ビジネスに変わった。どちらもCo-workingビジネスになったのである。Coworking Spaceも、もともとServiced Officeの側面は持っていた。双方の違いは、コミュニティあるいはP2Pへの取り組みにある。だから、その部分を強調して従来型をCommunity Coworkingと呼ぼうという動きが出て来るのは自然な動きだと思う。そして、WeWorkはCommunity Coworkingでもあるのだ。

日本では、今後定年退職者を含めてフリーランサーは必ず激増する。また、副業化、複業化も進む。否応なく、業務直結でない助け合いニーズは増え、機能としてのCommunity Coworkingの需要は必ず伸びる。

助け合い、P2Pは、事業目的と直結しないので、より人間関係、信頼関係に依存するものだ。嫌いな人を助けたい人は少ない。比較的均質的な少数のコミュニティの方が居心地が良さそうに見える一方助け合いのパワーは多様性のある大人数のコミュニティの方が強い。また、一人の人が同時に複数のコミュニティに属している。

Coworkingの未来はコミュニティの巧拙に相当部分依存するだろう。