DriesのDrupal recognized as a Digital Public GoodでDigital Public Goods Allianceの存在を知った。まずデジタル公共財とは何だ???と思った。SDGsに関連する国連の取り組みで、「デジタル協力のためのロードマップ」の日本語訳、発表 ー富士通が訳出に協力から読める日本語PDFのP8からデジタル公共財に関する記述があり、P9にDigital Public Goods Allianceが紹介されている。
デジタル公共財は特に低所得・中所得諸国では、デジタル技術とデータの潜在的可能性を解き放って、「持続可能な開発目標」(“Sustainable Development. Goals”. SDGs)を達成するのに必須である。
とあるように、2021年から26年までの戦略のP12の目標では4つともlow- and middle-income国という表現が使われていて、先進国には関係ないように読めなくはないが、日本はデジタル化ではどちらかと言えば後進国なので、大いに注目されて良いと思う。私は、米国もトップランナーだとは思っていない。GAFAが目立つのでデジタル先進国イメージはあるが、行政のデジタル化レベルは欧州の方が高いように感じる。EU市民権の確立に向けて様々な標準化が進められているのと、どこからの国の無理押しが難しい状況にあるのが強みなのだと思う。加えてエストニアの再独立後の電子政府化の成功は良い刺激になっていると思う。
この記事を書いている2023年6月12日の時点ではDPGA Registryに151のデジタル公共財が登録されていて、Drupalを含むオープンソースソフトウェアが130件、オープンデータが12件、オープンコンテンツが15件となっている。合計数が157件なので、6件は複数分野重複登録となっている。
エストニアが基盤としているX-Roadも登録されている。Once onlyポリシー(政府は同じことを複数回聞かない)から設計されていて、所管官庁を定めて、所管官庁で個人情報を含む情報の管理責任を持ち、他の組織は必要な場合に所管官庁の照会サービスを利用するモデルに基づく基盤ソフトだ。日本の制度との違いは、個人情報は本質的に個人に属するものであって、政府は必要に応じてそれを預かって利用する権限を有すし、同時に気密性を担保する責任を負うという姿勢にある。
How does your solution handle inappropriate and illegal content?
It is the sole responsibility of the governing authorities in each country that deploy the X-Road data exchange layer. NIIS/X-Road has no role regarding the content transferred.
とあるように、情報を(全件あるいは複数件)転送する機能は有しない。これは、政府が個人を管理するモデルとなっている国からすると容易に採用できないが、これから制度を再設計しようとする途上国にとっては、この基盤を採用すれば、安価にデジタル・ガバメントを構築することができ、透明性が高くなるので、交易上も有利になる。既に、Argentina,Azerbaijan,Barbados,Brazil,Cambodia,Colombia,Djibouti,Dominican Republic,El Salvador,Estonia,Finland,Germany,Iceland,Japan,Kyrgyzstan,Mexico,Palestine State,Vietnam(日独は限定的との注記あり)で利用されている。明らかにデジタル公共財として機能している事例と言えよう。IT基盤は政権を縛る面もあるので、この流れが広がるかどうかはわからないが、私は大きく期待している。
地理空間情報ではどうなっているのか気になって、調べてみたら7件見つかった
1 | GeoPrism Registry | データ管理 | Open Software |
2 | Iaso | データ管理 | Open Software |
3 | Hand-in-Hand Geospatial Platform | 国際連合食糧農業機関 | Open Data |
4 | Global Human Settlement Layer | (医療)施設 | Open Data |
5 | Dymaxion Labs Toolkit | ツールキット | Open Software |
6 | DiCRA | 環境・農業 | Open Software |
7 | Global Open Facility Registry | (医療)施設重複解決 | Open Software |
感染症との戦い、地球環境問題で、地理空間情報は重要な基礎技術となり、かつ難易度が高いIT技術なので、途上国は容易に手が出ない。残念ながら、QGISは含まれていない。Drupalの場合は、オーナーシップが、Drupal Association, 501c3 and Dries Buytaert, Drupal Founder.で適格非営利法人であるDrupal AssociationからDPGAに申請したことで認定が得られている。オープンソースのコミュニティは柔いことが多く、デジタル公共財として十分な組織的なガバナンスができるかどうかも問われることになるようだ。
アメリカやオーストラリアなどでは、多くの地方自治体のIT基盤としてDrupalが利用されている。オバマ時代にはホワイトハウスもDrupalで運営されていた。プロプライエタリなソフトと違って、発注者の思いのままにはできないこともあるが、デジタル公共財を積極利用すれば標準化も進み、経営効率は上がる。私は、途上国だけではなく先進国もデジタル公共財利用モデルに移行していくことが望ましいと考えている。プロプライエタリ製品を有するプレーヤーは嫌がるだろうが、Linuxがデファクトの一つになっているように、長期的には基盤のレベルからデジタル公共財は入れ替わっていくだろう。個々の企業は旬に応じたビジネス展開が必要だが、公共分野では長期を見据えた戦略設定が必要だと思う。今後の動向に注目したい。