自治体のWebサイトには膨大な情報があって探せない

テレワークに関わる仕事をやっていると、地方自治体との関係が生じることがある。自治体には企業の競争力強化に貢献したいと真面目に考えている職員がいる。コワーキングスペースを整備しているところもあるし、どうやったらもっとよくできるのか知恵を絞っている姿を見ると頭が下がる思いがする。企業なら、今ならホームページがなければ顔なしと一緒だし、製品やサービスの一覧程度は開示するのが当たり前で、できるだけわかりやすく開示しようとする。自治体のサービスは膨大な量がある。利用するための手続きを記述するだけでもすぐ3桁になるし、開示情報を紹介するだけでもやはりすぐ3桁あるいは4桁になる。実は一般的な企業より遥かに自治体のWebサイトは難易度が高いのだ。

私は、文京区に住んでいる。文京区のページを見ると、冒頭の重要情報だけでも11件記事があり、次の「新型コロナウイルス感染症への対応」のブロックにも50件弱の記事があって見る気が削がれる。その下に手続きなど8つのメニューが有って、それぞれにサブメニューが5~15程度ぶら下がっている。検索を楽にできるような配慮や、結婚等のライフシーンで手続きがまとめられているので、住民にとって使えるサイトにしようとしている熱意は十分感じる。十分感じるが、何か調べなければいけないことがなければ訪れる気にはならない。一方で「食品営業許可施設」は探せない。東京都のオープンデータを探してもNot Foundでデータを見ることができない。ちなみにお隣の台東区では、食品衛生営業施設一覧で見つけることができる。

文京区は申請の電子化にも取り組んでいて、東京共同電子申請・届出サービスを利用している。条件なしの一覧は見つけられない。住民は、自治体にどんなサービスがあるのか知らないから、自分に関係があるサービスも分からない。サイト内検索でコワーキングを引いても関連するサービスがあるのかどうかもわからなかった。文京区がどうかはわからないが、コワーキングスペースが産業振興につながると考えている自治体であれば、簡単にサービスが探してもらえるようにしなければ整備コストが無駄になる。

Twitterでも毎日のように発信があり、5件以上Tweetがある日もある。しかし、仮にフォローしても膨大な情報の一部となって見過ごされるし、自分にとって興味のないもの、関係がないと思われるものが多い。

ざっくり言えば、SN(Sound Noise)比で雑音が勝ってしまうのである。

文京区ホームページ利用者アンケートの結果を見ると、アンケートの回答者自身が昨年は18名しかいない。

文京区に文句があるわけでもないし、他の市区町村と比べて劣っているとは思わない。例えば世田谷区だと、このサイトについてには目的が明記されていない。文京区のこのサイトについては目的が明記されている。ただし、「文京区ホームページにリンクされる方は、ご連絡ください。」とあるので、このブログはルール違反していることになってしまうし「リンクはトップページにお願いします」とあるので、具体的な記事を指したリンクを紹介するのは許されていない。このページには「このサイトについて」へのリンクも張っているので、これもルール違反になってしまう。もちろん、適切でないリンクは防ぎたいから、ルール化するのはわかるが、一律に禁止するのは合理的だとは思えない。例えば、上述のコワーキング関連検索をさせるよりは、全国のコワーキングスペースや支援プログラムをリンクしてくれるような民間あるいはNGO、NPOのページからリンクしてもらうほうが良いだろう。

一つの解はAPI化だと思う。自治体サイトは本来公開情報だから、デジタル庁などでスキーマを決めて、それに基づいてコンテンツ情報Feedを公開すれば、利便性が上がるだろう。オープンソース化すればなお良い。Drupalでニュースリリース等のContent type等をまとめたDistributionを作れば、バックエンドを作る労力は飛躍的に軽減されるだろう。

もう一つの軸は、パーソナライズだ。文京区民だけが申請できる手続きは限定公開で良いし、自分のプロフィールに基づいて情報を絞り込んだポータルがあれば、メニューの数は激減する。使うための労力は減り、必要を感じたらプロフィールを適用しない一般モードに切り替えれば良い。パーソナライズを行えば、ニュースメールも毎週あるいは毎日読んでも良いものに変わるだろう。

とにかくスキーマを決めていくのが寛容だと思う。多少のバリアントはあっても良いが、スキーマが決まってオープンソースのバックエンドが作られれば、自治体のサービスも有効活用されるだろうし、住民の生産性も高まるに違いない。

どんなサービスにも、どんなリリースにも、必ず所期の目的がある。目的が明確であればクライアント属性の像が結ぶようになる。逆に所期の想定とは違うクライアントがつくこともある。それでも、きちんとモニタリングできるようになれば、サービスの改善も早くなるし、有効性も計測可能になる。

悩ましいのは、自治体ごとに車輪の再発明を行ってしまうリスクが大きいことと、NTT系や大手電気やコンサルティングファーム、政商が金儲けのネタにしようとすることだ。政府、デジタル庁がオープンソース戦略を明示して、そのかわり開発コストを大きくして無償で再利用できるリソースを増やせば、結局安くつくだろう。私は、デジタル・ガバメントの基盤の最右翼はDrupalだと信じている。