テレワークの後退

日本生産性本部の「第10回 働く人の意識調査 テレワーク実施率は16.2%と過去最低を更新、20代・30代の実施率が大幅減」は予感はあったがショックだった。サブタイトルにあるようにテレワーク実施率は16.2%と過去最低を更新、20代・30代の実施率が大幅減となるということは、デジタル化に相当な抵抗があるということだろう。

Leesmanのサーベイでも若手の人、あるいは就業期間が浅い人のほうがオフィスに集まるという体験を好む傾向があるとあった。伸びている最中の人は他人との接点が極めて重要ということだと思う。個人差もある。

私は、どこで過ごすかはその後の人生を変化させると考えている。子供の時の転校や進学による環境変化の影響は大きいし、就職による環境変化もその後の人生を変え得るものだろう。オフィスに集まることで、成長できる要素があるのは間違いないことだと思う。しかし、オフィスは同質性が高い空間で経験的には3年程度同じ集団と接していると成長が鈍化する。逆に、3年程度チームが維持されると、安定的な生産性が期待できるようになる。経営観点からすると、変化が大きくない環境ではそういうチームの存在はとても好都合だ。何も手をかけなくても成果を出してくれる。しかし、10年もすると賞味期限は切れる。一般に型ができると環境変化に弱くなり、環境は必ず時間とともに変化するからだんだん乖離が大きくなり再編や撤退が必要になる。もちろん業界や業務によって年数には違いがあるし、長くやらなければできない業務はあるから、一律に考えるわけにはいかないが、日本企業の定期的人事異動や組織改編は経験に基づく知恵の一つである。

私は、新入社員として企業に就職したときから、組織の外に出ていくのが好きだった。外部研修や英会話教室、大学の研究室等に出入りするのも楽しみにしていた。出ていくと、会社にいる人とは違う話が聞ける。もちろん、上司や先輩、同僚と接することで学べることは多いのだが、歩きまわればいろいろな人に出会う。初めての海外出張も印象的だったし、スタンフォード大学との接点からシリコンバレーの少なくない数のスタートアップの人たちにも出会った。99%はやがて関係が消えてしまうが、いろいろな人に出会うことで私の人生は豊かになったと思っている。前職の時は、部下をなるべく外に出かけるように意識して活動していた。2011年の東北大震災後から特にテレワークに積極的になったのはBCP観点はもちろんあるが、オフィスの外にいても仕事ができるということで新たな出会いのチャンスが増えるということに魅力を感じていたことが大きい。そして、前職を離職しユビキタスライフスタイル研究所を設立した。

職務にもよるが、一人で集中して行うアクティビティはかなりの割合を占める。デジタル化が一定のレベルに達していればそういう仕事はどこにいてもできる。オフィスワークは人に会うために行く、そこに価値があるから行くと考える方が合理的だ。そう考えるとテレワーク実施率16%はあまりに低すぎる。オフィスに行く価値などなべればせいぜい3割もあれば十分だろう。70%-16%=54%≒5割は、いたい場所がないか経済的に見合わないということだろう。私はこの5割が動き出すかどうかが日本の復活のキーだと考えている。

2020年の9月に新型コロナ後の世界を考えるを書いた。その記事で引用した「ポストコロナの世界と日本 ─レジリエントで持続可能な社会に向けて」のP4に日本の IMD 世界デジタル競争力順位というチャートがあり63カ国中23位とある。また、P8に世界の GDP シェアというチャートがあり欧州経済圏を一国とみなした場合の予想を含む推移が図示されている。これらは日本の凋落の現実を指し示していて、テレワークになってどこにいたって多くの業務が遂行できるようになったのだから、特に若い人は日本より高評価の環境で出向いていって働いた方が良い。外に出ていって学んで日本の復活に貢献し欲しいと願っている。

ちなみに2021年度のIMD Digital Competitiveness Rankingは、64カ国中28位と5ランクも低下している。新興欧州のエストニアと比較するたチャートは以下の通り。

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改めてながめると政治の失敗が凋落の原因となっているのがよく分かる。科学的経営に向かっていない点が致命傷と言っても良いだろう。生産性、効率性も大きく遅れをとっている。保守は亡国だ。

シリコンバレーに通っていた頃、スタートアップ企業が会社として素晴らしいと思ったことはほとんどなかったし、ニューヨークに住んでいたときも東京のほうが道が平で清潔だと思ったけれど、どちらの街でも接した人々から学ぶことは多かった。どちらも、コワーキングスペース登場前の時代の話なので、コワーキングのチャンスは無かったが、もし機会があったら使っただろうと思う。今一度、ニューヨークの子会社の社長をやるとしたら、自分が自社オフィスに出る時間は1〜2割で、コワーキングスペースを多く使うだろう。

やがて多くのビジネスは強分散に移行する。いろいろな背景を持った人が、会社という枠にも縛られずに共に成長し、成果を出す時代が来る。挑戦する人の背中を押すような社会の到来を期待したい。昔の出稼ぎとは違う。地域の関係を保ったまま人を送り出すことは可能になった。国境の壁を高めても滅びを早める効果しか無いだろう。新型コロナ後の世界を考えるの冒頭の絵で書かれている「ルールに基づく国際秩序の再構築」と「重層的な国際協調」は的を射ていると思う。ロシアとも中国ともうまくやっていける道を探さなければいけない。少なくとも、今の地球は戦争などやっていられるような状況ではないし、武力強化にお金を使っている余裕などありはしない。簡単なことではないが、移動の自由、移働の自由の強化に力をいれるのが良いだろう。