サードワークプレース研究部会2022年度レポート

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日本テレワーク協会がサードワークプレース研究部会2022年度レポートを公開した。

【報道発表】「転換期を迎えるサードワークプレース」 ~メタバース・ワーケーションの台頭~ サードワークプレース研究部会2022年度レポートの発表について

6月26日に研究発表を行い、2022年度活動は終了する。ニュースリリースには、

2023年度は対面のアクティビティも増えると予想されますが、オフィス面積を減らしている企業もあり、サードワークプレースの利用はさらに進むと考えられます。対面や在宅、サードワークプレースやメタバースなど、働く場所の概念はさらに広がっており、ワークプレースが持つべき機能は何かを再考する時期を迎えているのかもしれません。

と書かれている。レポートのあとがきでも同様の内容に触れている。1年前に2022年度の計画をする時に、感じていたことでもあるが、部会員の合意も取れて研究部会のレポートに「ワークプレースが持つべき機能は何かを再考する時期を迎えている」と書き込むことができた。サードワークプレース研究部会は2017年度から6年続いてきたもので、当初はコワーキングスペースで部会を開催するなど、企業人はほとんど接点がなかったサードワークプレースを知ってもらおうという色彩の強いものだった。その後、WeWorkの台頭や大手不動産会社等のサードワークプレースビジネスの参入が相次ぎ、少なくとも東京ではZXYのコマーシャルも多くの人が目にしたと思うし、駅ナカ施設を含め様々なサードワークプレースを目にした人も多いと思う。うまく使いこなせているかはともかく、「サードワークプレースの存在を知ってもらおう」という初期の思いはもう追求する意義はなくなっていると思う。一方で、コロナ禍の強制在宅ワークでIT化は確実に高まり、オフィスに行かなくてもできる仕事、むしろオフィスに行くよりも効率が上がる仕事があることも多くの人が実感した。Web会議も当たり前になり、リモートワークツールの普及も進んだ。

なぜオフィスに行くのか、なぜサードワークプレースに行くのかという問は意外と回答が難しい。目的、目標がはっきりしている業務については、どうやって仕事をするかは本質的ではない。一方で、人が人と協力して仕事を進めていくことを考えれば場所や時間に制約を与えるのが合理的と考えられることもある。

フルタイム正社員を正とするワークスタイルは既に破綻が見えている。大きい組織で働くことのメリットは小さくないが、技術の進化に伴って業務の内容はどんどん変化する。私はAIが雇用を奪い尽くすというようなことは起きないと思っているが、ワークスタイルには大きな影響を与えることに疑いはない。同じ組織で働いていても業務の内容は10年も経過すれば相当変わるものだ。これまでもそうだし、今後もどんどん変わるだろう。

もう一つのキーワードは「企業にとどまらないコミュニティの在り方の再定義」だと思っていて、大きな流れとしては多様性の許容が強いられているということだと思っている。男性目線では、家庭では家長としての責任と権限が与えられるということを正とし続けるのは現実的でなくなっているということであり、企業内でも上司と部下の関係は支配関係ではなく役割として捉えざるを得なくなっているということだ。家庭もコミュニティであり、地元も職場もコミュニティ、コワーキングスペースもコミュニティとなり得る。全ての人が複数のコミュニティに属していてそれぞれで役割を担っている。物理的にいる場所にはコミュニティが存在していて、そこではそこにふさわしいふるまいが求められるようになる。家にいるのに家事を一切やらないのは好ましいコミュニティメンバーとは言えないし、コワーキングスペースに会員登録すればその規範に従わないわけにはいかない。同時に、コミュニティに属することの恩恵も得られるわけで、ワークスタイルとライフスタイルは年々隣接領域が拡大傾向にある。無論、グローバル化による多様性の拡大もある。性自認でマイノリティであっても企業で社長になる人もいるし、その地域でマイナーが属性を持つ人が重要な役割を担うケースも増えている。そういった動きの中で、多くの家長の権威は失われ、男性優位も失われ、自民族の誇りに拘る人が蔑まれるようになる。当然、旧来のマジョリティからの強烈な攻撃も起きる。それでも、グローバル化は現象だから止まることはない。

2013年からコワーキングスペースに関わるようになって、何度もLike mindedという言葉を聞いたが、その重視は今も変わらないものの、より多く耳にするようになったのはDEIだ。コワーキングスペースは任意参加のコミュニティだから居心地の良さを求めがちだが、コミュニティを維持するためにはコミュニティメンバーの役割分担が必要になる。いくらスペースの運営者が多くのサービスを担ったとしても人間の集団だから個々のメンバーの自制心は不可欠になる。ある意味で、社会の縮図でもある。DEIに優れているスペースは比較的上手く行っているように見え、閉鎖的なスペースには持続性が感じられない。コワーキングスペースは、これからの社会のプロトタイプに見える。簡単に理想的な環境には近づかないが、ノウハウは蓄積されてきていると思う。

全てのコミュニティが変化にさらされている。力に頼ろうとする人も出る。ディストピア的な側面はあるが、全体で見れば技術の進化は生産性を上げるから、再配分を誤らなければ総体としてのQOLは確実に上がる。過剰に利益を得ていた人が得られなくなるのは苦しいことだが、結局はそれぞれが担える役割を担っていくしかなく、単純なロールモデルに頼ることはできない時代が来たということだ。

私は、今大きな時代の転換期にあると見ている。保守的な考え方に持続性がないからこそ過激化しているというのが現実だと思う。しかし、理屈に合わないことを無理に通そうとしても無理は続かない。むしろ、新たな制度設計に挑戦しなければいけない時期を迎えていると考えたほうが良いと思っている。

サードワークプレースは、同一組織に属している人以外ともコワークする空間である。それだけでも多様性が拡大し気づきの機会を与える力がある。だから、私はサードワークプレース利用を推してきた。その向こうに新たなコミュニティが存在していることに注目して新たなライフスタイルの確立に挑戦する時期が来ているのではないかと思う。

企業もコミュニティの一つで、有形資産、無形資産の保管庫の役割を持つ。それがあるから、個々人の活動より高い生産性を発揮できている。逆に、強い部分に縛られる欠点がある。NPOも形態の一つだが、容易に無形資産を蓄積できる仕組みの確立に強い関心を持っている。そろそろ、新たな道を模索する時期が来たと思うので、研究部会に運営側で参加するのは2022年度で終わりにしようと決断した。部会員として参加を希望するかはまだ決めていない。

一部の年を除いて、毎年何らかの提言を含むレポートを作成してきた。無形資産を日本テレワーク協会に蓄積はしたが、それが社会福祉の役に立っている手応えは得ることはできなかった。何らかの形で動くソフトウェアを書かないと駄目だなあと思っている。もちろん、これまでやったことが無意味だとは思っていない。オープンソース・ソフトウェアの時代なのだと改めて感じている。創業10年でもあり、新たな一歩を踏み出したい。

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